ある夜、会社の飲み会の帰り道、無理矢理風俗に連れていかれた男。
その時から、頭の中で待合室に流れていた音楽が鳴りやまない。
気付くと、世界にはリズムが溢れていた。
人がみな、駅に向かって歩いている、てくてく、てくてく。
キーボードがなっている、かたかた、かたかた。
客引きが話しかけてくる、ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。
もう男は、何も聞きたくはなかった。
鳥のさえずりも、風の音も。
ただ一人静かにたたずんで、耳をふさいだ。
どくんどくん、どくんどくん、自分の心臓の音が聴こえてくる。
鳴り響くこの鼓動からは、どこにも逃げられないことを知る。
いや、逃げても良いのかもしれない。
男にゆっくりと、静かに、遅すぎる覚醒が訪れる。
鼓動が、溶けだしていく。